小沢昭一さんの13回忌、大阪の「暗がりのライブハウスで浄瑠璃を聴く」(11月29日)

今年12月10日は小沢昭一さんの13回忌ですが、関連して行なわれる最も盛大な芸能関係の催し「小沢昭一十三回忌追善 日本の翻弄芸 爆笑三人組」(12月20日)は、玉川奈々福さんによればすでに満員御礼とのこと。聖地である木馬亭へ私もゲストでお呼ばれして少しおしゃべりをしてきます。

最近、小沢さんのことを考えながら取り組んでいるのは、「暗がりで浄瑠璃を聴く」会です。素浄瑠璃という、文楽の人形なしで太夫と三味線だけを聴く会なのです。

チラシ(2024.9.1)FVのサムネイル

▲お手製のチラシは国立文楽劇場にも置いて頂きました!ご自慢の私の三味線は鶴澤清志郎さんの旧蔵品。鈴木家のダイニングテーブル(江戸時代の木戸だと思う)の上にて撮影

なぜこのような、なにやら通っぽい感じの催しを、文楽の専門家ではなくて単なるお客のひとりである私(しかも東京人で人生の後半で大阪に来て文楽にはまってしまった)がやっているのかというと、大阪で素浄瑠璃の会へ行ったときに客席やロビーで出会う、いわゆる「大阪のおっちゃん」「大阪のおばちゃん」たちの高度な会話に、大阪文化の未来への希望、いや人類の文化の未来への希望を見たからなのです。

文楽は重要無形文化財に指定されながらも、地元大阪では国立文楽劇場の席に空席が目立つことも多々あり、大阪府の助成経費削減が進められるなどの憂き目にあっています。確かに小沢的視点から言えば、お金にならない芸能をあえて救うのは大衆の意に反するのかもしれない。

ところが素浄瑠璃の会に来る「大阪のおっちゃん」「大阪のおばちゃん」の知恵こそ、生きた文化財といえるもの。例えば、超若手の素浄瑠璃の会という、これまた一般の人は来なそうな会に来て、その日の出演者の誰は誰に何を教えてもらっているからどういう特徴だとか、休憩時間に盛り上がっているその民度の高さは東京人にはうかがい知ることができない。一人で来ているおっちゃんおばちゃんには、なおさら声をかけたくなる。

小沢さんにそんなことを言ってみたくて、素浄瑠璃にこだわっている次第なのですが、もしかしたら小沢さんが「放浪芸」を記録したのは同じことなのかも、つまり、芸能を支える底面の人たちの記憶を記録したい、ということなのかもしれません。

それで昨年度より、今を時めく中堅の竹本織太夫(たけもとおりたゆう)さんと三味線の鶴澤清志郎(つるざわせいしろう)さんにお越し頂いて「暗闇」や「暗がり」で浄瑠璃を聴いたり、至近距離で(これ大事!)聴きどころを解説して頂きながら演奏を紹介して頂くといった贅沢な試みをしておりますが、とにかく参加すると誰しもが文楽が好きになるというイベントなのですよ!

とくに大阪の人からは、中学校の文楽鑑賞のときにこういうのやってくれてれば、もっと早く文楽すきになっていたのに残念、という、お役所の方に聞いて頂きたいご意見を頂いています。

そして今年度は、文楽三大名作の一つ『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』から四段目の名作「寺子屋の段」を取り上げて頂いています。ハンカチ持参必須です。

暗がりで浄瑠璃を聴く(9月1日)終了。台風にも関わらず満員御礼!

暗がりのライブハウスで浄瑠璃を聴く(11月29日)満員御礼!10日後です!

ふたつとも、2022年度より3年間の大阪大学の社会人向けアート・マネージメント人材育成プログラム「中之島に鼬を放つ——大学博物館と共創するアート人材育成プログラム」にて試行錯誤してきたプロジェクトの一部なので、こんなにも人気の素晴らしいお二人をお呼びしているのに、十分な宣伝ができずにもったいないというか贅沢すぎると思いまして、最終年度である今年度は僅かなお席ですが一般の方にも公開しました。が、直ちに満員御礼。中には東京から足をお運び頂いた方も。

ちなみに「アート・マネージメント人材育成」のミッションとしては、視覚障害者の方にも素浄瑠璃・文楽へ来ていただける<場>を作ることができるアート人材養成を目指してきました。ただし受講生はまず文楽のファンになってしまいましたが・・・これもアート人材としては重要。

今年度は「障害者差別解消法」が改正されたことで、障害者の方への鑑賞サポートは義務(合理的配慮)となり、このような催しがますます必要とされていくことになると思います。それでももっと重要なのは、Reading ACTの田中京子さんのいう「日常での鑑賞サポート」だと思うのですが。

大阪の文化を敬愛した小沢さんの仕事が、このような形で未来の「大阪のおっちゃん」「大阪のおばちゃん」を育み、今はやりの言葉で言えば「共創芸術」に展開したら理想だと思うのでした。

プレスの関係の方で、この催しを未来のために書き記して頂ける方がいれば、ぜひご連絡ください。
suzuki.seiko.hmt★osaka-u.ac.jp(星を@に)